日語閲讀:渡辺淳一「美しい別れ」 2
だが、外へ出ると風が冷たかった、一瞬、私はこのまま別れるのは、少し酷なような気がした。
それは彼女のためだけでなく、僕自身にも淋しすぎる。
「ちょっと、もう一軒だけ飲みに行こうか」
僕が言うと、彼女は素直にうなずいてくれた。
枯葉の舞いだした舗道を歩きながら、僕は「もう一軒行くのは、風が冷たいからで、別れたくない彼ではない」と自分にいいきかせた。
別れるはずの女性と、いつまでも一緒にいる理由を、風や寒さのせいにするのは卑怯かもしれないが、実際、そのときはそうだと思いこんでいた。
だが、そう言い訳することが、すでにおかしかったのかもしれなかった。
もう一軒のバーに行き、飲んでいるうちに僕は次第に気持ちが和らんできた。
今日で最後だという、悲愴な気持ちが薄れ、まだまだこれからも一緒にいるような錯覚にとらわれてきた。
今何故、別れなければならないのか、その根拠さえ疑わしくなった。
それは彼女も同じらしかった。
酔って、いつの間にか、僕の肩に頭を寄せている。
やがて、二軒目の店を出ると十時だった。
風は相変わらず冷たい。その北風に觸れて、僕は改めて、今日彼女と別れるために會ったことを思い出した。
僕達は、一通りの少なくなった裏小路を並んで歩き、表通りに出たところでタクシーを拾った。
「送っていこう」
K子はしばらく僕の顔を見てからうなずいた。
繁華街から彼女のアパートまでは、車で十五、六分の距離だった。
広い通りを左へ曲がり、薬屋の角を右へ曲がったところが彼女の家である。そこへ著いたら、僕はもう永遠に別れなければならない。
車が停まったら、男らしくきっぱりと分かれよう。
そう思いながら、タクシーが彼女のアパートの前に著いたとき、僕はまるで別のことを言った。「ちょっと、寄っていい?」
「降りるの?」
僕はうなずくと、すぐお金を払って、あとを追った。
そのまま、K子の部屋へ行く。
ドアを開けてはいると、部屋の中は暗くてひんやりとしていた。窓際にある機の上の置物が、闇の中にぼんやりと浮き出ていた。
僕は、こんなところにK子を一人で帰すのは可哀想だと思った。やっぱり家までついてきてよかった。
「コーヒーがいい、それともお茶?」
「お茶をもらう」
位律師廻複
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